今回はベリリウム銅についてお話したいと思います。
ベリリウム銅はその名の通り、人体に有害とされているベリリウムを化学成分として含有しており、一時期はRoHS指令において規制対象になっていました。
REACH規制はどうでしょうか。2016年にSVHC高懸念物質としない事が明らかになっています。
多くの優れた代替材が登場していますが、削減する動きはRoHS規制対象時の頃よりは少ないと思えます。
この講で採り上げる事についても少し考えるところがありましたが、現在の状況であればお役に立てるかなと思い掲載する事にしました。では本題にまいります。
A.変わり者
どこにも変わり者がいます。ばね用銅合金にも変わり者がいますが、ベリリウム銅(以下 BeCuという)合金がそれです。
この合金の最大の特徴は析出硬化処理(315±5℃×120 分の析出処理)で、強度が析出前の約2倍以上に増加することです。
*析出硬化…右図(図9)はBeCuの状態図の一部で、この図からCuの中に溶けこむBeの量は高温で多く、常温で少ないことがわかります。
たとえば高強度合金の場合、800℃で 2%のBeがCuに溶けこみますが、常温では0.2%くらいしか溶けこみません。
したがって、高温から急冷すれば過飽和となったBeを固溶したままのα相を得ることができます。
これを溶体化処理といいます。
溶体化処理したものを315℃程度に加熱すると、過飽和のBeはγ相として析出し著しく硬化します。
これを硬化処理といいます。以上の2つの熱処理によって析出硬化処理は行われます。
前回お話したステンレス鋼の析出硬化系も同じような性質のものです。
B.JIS H 3130 及び H 3270
Be-Cu合金のばね用としてJIS H 3130にはC1700板、JIS H 3270 にはC1720線が規定されています。
両材ともCo(コバルト)を0.25~0.35%含有し、硬化しすぎてもろくなるのを防止しています。
なお、C1700はC1720にアメリカでも統合される動きがあります。
Be-Cuの析出温度は 315℃で、315℃は高温時効に属し、これに似たものにSUS631の470℃の析出温度があります。
一方、常温時効に属するものに低炭素鋼の時効があります。日本では“枯らす”といってひずみ除去になります。
Be-Cuの析出硬化は時間の影響もありますが、JIS では質別によって次のように決められています。
0種-180 分, 1/4H 種-150 分, 1/2H 種-120 分
C.ミルハードン材
ミルハードン材といわれる材料があります。
JISには規定がありませんが、これは成形後の析出硬化処理を行わなくてもすむように先に硬化処理をしたもので、正規の強度に比べて 60~70%低めに仕上がっています。
しかし、これでもかなりの強度があるので便利に使われています。
表6はBeCuのC1720 とそれに匹敵する他の銅合金の引張強さを示しています。
合金番号 | 質別 | 記号 | 径 (mm) | 引張強さ (N/mm2) |
C1720 | O | C1720W-O | 0.5以上 | 390~540 |
1/4H | C1720W-1/4H | 0.5以上 5以下 | 620~805 | |
3/4H | C1720W-3/4H | 0.5以上 5以下 | 835~1070 | |
C5212 | 1/2H | C5212W-1/2H | 0.5以上 5以下 | 685~835 |
H | C5212W-H | 0.5以上 5以下 | 930以上 | |
C7701 | 1/2H | C7701W-1/2H | 0.5以上 5以下 | 635~785 |
H | C7701W-H | 0.5以上 5以下 | 765以上 |
合金番号 | 質別 | 記号 | 径 (mm) | 引張強さ (N/mm2) |
C1720 | O | ― | 0.5以上 | 1100~1320 |
1/2H | ― | 0.5以上 5以下 | 1210~1420 | |
3/4H | ― | 0.5以上 5以下 | 1300~1590 |
*表中の記号
C・・・・銅(Cupper)
W・・・・線(Wire)
H・・・・硬質(1/4Hは1/4硬質、3/4Hは3/4硬質)
O・・・・軟質
今日はこれまで。